SPH(スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール)

SPH事業報告




1 研究開発課題名
 地域の食・農・環境の持続的な発展に貢献する人材の育成 −新たな技術や発想を取り入れた農業を創造する“GINO Brand”を目指して−  

2 研究の概要
(1)研究の背景
  岐阜県では変化に富んだ自然条件と好立地条件を生かし、多様な農業が営まれている。また、多くの地域ブランドを生かした農業が展開され、今後ますます需要の拡大が見込まれている。一方、農村部では高齢化の進行による担い手の減少に加え、鳥獣被害や耕作放棄地の増加など多くの課題がある。
(2)研究の目的
  本校がこれまで構築してきた地域や企業、大学、研究機関等との連携実績を生かし、地域との協働による研究活動をより強固なものとし、社会の変化や産業の動向に対応できる人材を育成する。また、地域資源の活用や地域環境の保全、地域課題の解決などグローバルな視点を持ちつつも地域に関わる内容に特化し、地域産業を担う人材、地域創生をリードできる人材を育成することを目的とした。
(3)育成したい能力と人材
  本研究では、次に示す5つの能力が地域の食・農・環境の持続的な発展に貢献する人材育成に必要であると定義した。
ア 「もの」を創造できる能力
 栽培や生産方法の改善、新たな実験技術の考案や工夫、農業の各分野に応用できる能力等、製品だけでない知的産物を含む、「もの」を創造できる能力の育成を通して、社会の変化や産業の動向に対応できる人材を育成する。
イ 地域の実態に応じた課題発見や課題解決能力
  地域資源を活用した地域や企業、大学等との連携を強化し、課題発見や課題解決能力の育成を通して、地域農業の振興や社会貢献に主体的かつ協働的に取り組む態度と、将来の地域農業を担うことができる人材を育成する。
ウ 安全で安心な価値の高い食品ブランドづくりができる能力
  高度な知識・技術や、品質保証システムの活用による商品価値の向上を目指し、安全で安心な価値の高い食品ブランドづくりができる能力の育成を通して、知的財産マインドや課題解決能力、経営スキルを備えた人材を育成する。
エ 生産方法を工夫した農産物ブランドづくりができる能力
  スマート農業を展開できる高度な知識・技術を身に付けるとともに、農業生産工程管理の活用による商品価値の向上を目指し、生産方法を工夫した農産物ブランドづくりができる能力の育成を通して、地域の第1次産業の発展に貢献し、地方創生をリードできる人材を育成する。
オ 環境に配慮した技術活用ができる能力
  地域環境保全の観点に立ちながら、地域の価値を高める里山環境を創り出したり、食糧生産と生物多様性の保全を両立させたシステム開発に挑んだりするなど、環境に配慮した技術活用ができる能力の育成を通して、地域農業の振興や社会貢献に主体的かつ協働的に取り組む態度と、将来の地域農業を担うことができる人材を育成する。


図1 アイデア抽出

3 実施内容
  前出の5つの能力を身に付けさせるため、以下の取組を実施した。
(1)「もの」を創造できる能力
  科目「課題研究」での取組内容と知的財産を関連付けた学習を行った。また、外部講師による知的財産に関する講義の他、発想技法やアイディア創出法の演習を実施し、本校周辺に潜在する課題を探究して地元企業や自治体と連携した活動や商品開発を行った。
(2)地域の実態に応じた課題発見や課題解決能力
  GAP認証取得の学習成果を生かした、生徒によるGAPアドバイザー活動に取り組み、地域農家に対してGAP認証取得に向けたアドバイスをした。
 知的財産に関する学習を実施し、地域の課題発見、解決のアイデア創出や新規性判断に関する体験型学習を行った。
(3)安全で安心な価値の高い食品ブランドづくりができる能力
  徳山唐辛子や長良ぶどうを用いた加工品づくり等、新しい特産加工品の開発を行った。また、未利用資源である微細藻類資源作物(イシクラゲ)の大量増殖を目指して培養に取り組み、これを利用した「イシクラゲうどん」を開発し、食味アンケートを実施した。
 岐阜保健所指導員によるHACCPに関する研修やHACCPシステムエンジニアによる研修を行い、安全で安心な食品製造の学習を行った。

図2 イシクラゲの培養とうどんの試作

(4)生産方法を工夫した農産物ブランドづくりができる能力の育成
  環境に配慮した安全で安心な栽培を目指し、適切な生産工程の構築を通して、米のGLOBALG.A.P.及び青果物のJGAP認証を取得した。さらにこれらを基にトマトとキュウリでGLOBALG.A.P.認証を実現しただけでなく、他の作目においても、同等レベルの取組を始めることができた。
 高品質生乳生産では、飼料給与方法の改善をはじめとした生産技術開発に取り組んだ。また、JGAP(家畜・畜産物)の認証を取得した。

図3 トマト栽培と乳牛の飼養

(5)環境に配慮した技術活用ができる能力
  国指定史跡の公園化に向けた樹木プレートの設置や竹林の対策を行った。また、本巣市教育委員会に対して調査報告会を実施し、植栽プランや竹林対策などについて提案することができた。
 水田魚道の研究を行い、水生生物のすみかとなる「江」の設置と効果の検証を行った。研究成果は、岐阜県河川課主催の自然共生事例発表会で発表をした。

図4 水田魚道講習と「江」の設置PR

4 実施の成果
  身に付けたい能力ごとに具体的な成果をまとめてみる。
(1)「もの」を創造できる能力
  まくわうりを用いた商品開発やイシクラゲを使ったうどんの開発などを行い、地域と包括連携協定を締結するなどして、開発した商品を販売することができた。また、外部講師を招聘した知的財産教育の講義も実施できた。
(2)地域の実態に応じた課題発見や課題解決能力
  生徒によるGAPアドバイザー活動により、地域農家がJGAP認証を取得することができた。また、農場の環境を良くするための具体的な方策を考案、実践する力やコミュニケーション能力を身に付けることができた。
(3)安全で安心な価値の高い食品ブランドづくりができる能力の育成
  徳山唐辛子の取組では「底地辛うどん」を商品化でき、農業クラブ全国大会をはじめ、各種大会で発表を行い、成果の普及につなげることができた。
 イシクラゲの大量増殖の取組では、安定培養ができるようになった。また「イシクラゲうどん」の開発では、イシクラゲ粉末添加率の検討を重ね、製品化できた。
  HACCPの取組では、岐阜県版HACCP認証制度の学習を行い、この成果として本校穀類加工室の設計に生徒が携わり、実際にその設計を基に実習室の工事が行われるなど、具体的な知識・技術を身に付けることができた。

図5 「底地辛うどん」と「イシクラゲうどん」の製品化

(4)生産方法を工夫した農産物ブランドづくりができる能力の育成
  GLOBALG.A.P.認証取得では、生徒の自発的な課題解決や能動的行動が活発になり、トマトにおいてはGLOBALG.A.P.認証だけでなく、栄養価の高いトマト栽培にも挑戦し、これらの取組によって他の作目においても作業工程の記録や見直しなどが自然に行われるようになった。
 高品質生乳生産では、飼料の栄養設計を見直し、分離給与からTMR給与へ切り換えることで、乳牛の体質改善効果の検証を行った。また、ニンジンサイレージを給与することで繁殖成績が向上するなど、高品質生乳の生産技術開発につなげることができた。
(5)環境に配慮した技術活用ができる能力の育成
  森林に関する専門家を外部講師として招聘し、地域環境の保全や里山の保護・管理について学習を進めることができた。また、専門家の指導や森林技術者との意見交流により、地域環境の保全や里山の保護・管理の重要性を認識し、知識や技術の確実な定着につながった。
 水田生態系の保全と稲作との両立について検証を行い、さらに現実的な取組として、栽培方法の違いによる水管理の効果を検証できた。また、生物多様性の保全と食糧生産との両立の検証を行い、「江」の設置による効果について成果を発表することができた。

5 学力の3要素による身に付けた資質・能力の検証
  SPH事業を通して身に付けたい資質・能力を、新学習指導要領に示される学力の3要素に基づいて設定し、詳細かつ客観的に評価できるよう工夫した。これらを基に関係科目においてルーブリックを作成して生徒に自己評価を行わせた。また、ポートフォリオとして課題研究PRシートを作成し、生徒自身が行う課題研究の取組を客観的に捉えられるようにした。このことにより、生徒の姿勢も変容し、積極的に研究へ取り組むようになった。また教員は、この評価結果を次の指導へ生かすことができ、生徒にとってより満足度の高い授業を展開することにつなげることができた。
 ポートフォリオの作成やルーブリックによる自己評価は、自身の取組を内容のまとまりごとに振り返り「何が理解できたのか」「どのように取り組めたのか」「何ができるようになったか」を確認できるため、探究のモチベーション向上に大きな影響を与えた。また、生徒自身が「何を目指したいか」を具現化でき、国立大学受験者の約8割が第一志望の大学で継続研究の夢を叶えた。また就職では、学科の学習や課題研究での学びを生かした進路を約7割の生徒が実現させ、地域に貢献する人材を輩出することができた。

6 今後の展望
 本事業の取組は、生徒の意識を変容させ、行動を起こす推進力となり、進路実現に結びついた。将来の地域農業を担う人材、地方創生をリードできる人材は、このようにして育っていくのではないか。「地域に有為な人材は地域で育てる」ことを念頭に、今後も研究を継続していきたい。


  知識及び技術
専門的知識・技術
 知識の質や量、確かな知識として習得する力、関連する技術
理解力
 身に付けた知識を相互に関連付け深く理解する力
観察力
 必要な情報を選択する力、多面的に見る力、観察した事実を整理する力
思考力
判断力
表現力等
 発想力、創造力
 身に付けた知識・技術を活用して新たな考えを生み出す力
探究力
 自ら発見した課題を解決に向けて探究する力
プレゼンテーション力、コミュニケーション力
 課題の発見・解決に取り組んだ成果を表現する力
主体的に学習に取り組む態度
主体性
 自ら主体的に取り組む力
協調性
 他者と協働し取り組む力
自己調整力、実行力
 見通しをもち調整する力、実行する力

表1 学力の3要素に分類した身に付けたい資質・能力

T 私自身の課題意識・問題意識
U 研究の概要
V このテーマに取り組んだ理由 
W 結果・成果
X 課題研究を通して学んだこと
Y 課題研究活動を通した自己の成長に関する評価
評価の観点
知識
技術
何を理解しているか
何ができるか
思考力
判断力
表現力
身に付けた知識・技術を活用して、課題を見つけ、課題解決の方法を考え、実行に移していく力
主体性 主体的に学習や研究活動に取り組む態度
多様な人との協働 社会の多様な人と関わりながら学習や研究活動に取り組む態度
 Z 評価を踏まえた自己PR

表2 ポートフォリオ(課題研究PRシート)